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東京地方裁判所 昭和23年(行)65号 判決

原告 山本いく 外五十二名

被告 東京都知事・東京都

一、主  文

原告等の被告両名に対する請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、請求の趣旨

原告訴訟代理人は、被告東京都知事に対し「同被告が原告等に対してなした昭和二十三年三月九日付異議申立却下決定はこれを取り消す、」被告東京都に対し、「同被告に隷属する新宿区長岡田昇三が原告等に対し特別徴收義務者として納入すべきことを命じた昭和二十二年四、五月分遊興税額(別表(A)項記載の通り)を同表(B)項記載の通りと修正する。同被告が原告等に対し特別徴收義務者として徴收せしめた昭和二十二年四、五月分遊興税については、原告等が受任者としてなした委任事務の終了した事実並びに原告等が納入すべき金額が別表(B)項記載の通りである事実を確認する、」被告両名に対し、「訴訟費用は被告等の負担とする」との判決を求めた。

三、事  実

一、原告等はいずれも料理飮食業を営み、東京料飮組合神樂坂支部に属する組合員であるが、東京都新宿区長岡田昇三は原告等に対して、昭和二十三年一月三十日、原告等が特別徴收義務者として東京都に納入すべき昭和二十二年四、五月分の遊興飮食税額は別表(A)項記載の通りである旨及びその納入期日は昭和二十三年二月七日である旨決定し、これを同月二日到着の書面で原告等にそれぞれ告知した。

二、原告等は右納入金額の決定には違法があると認め、地方税法(昭和二十二年法律第三十二号以下同じ)第二十條の規定により昭和二十三年二月九日被告東京都知事に対し異議の申立をしたところ、同被告は同年三月九日付で遊興税の特別徴收義務者である原告等には右法條による異議申立権がないという理由で、右申立を却下する旨の決定をした。しかし、久しい傳統と徴收上の便宜からして遊興税の賦課や納付については特別徴收義務者も亦遊興税の賦課を受けたものと同様に取り扱われて來た在來の実情から考えれば、遊興税の賦課を受けたものの異議申立に関する地方税法第二十條の規定は特別徴收義務者にも当然適用があり、仮りにその適用がないとしても、同法第四十一條の精神に從い、右規定の準用はあると解すべきであつて、かように解することが憲法第九十三條に所謂「地方自治の本旨」にそう所以であると信ずる。從つて、原告等は地方税法第二十條による異議申立権を有するに拘らず、被告東京都知事の右決定は同法の解釈を誤り原告等に右権利を認めぬ点において違法であるから、原告等は本訴においてこれが取消を求める。

三、原告等が前記納入金額の決定に違法があると認める理由は次の通りである。即ち、もと国税であつた遊興飮食税は昭和二十二年三月末日限り廃止せられ、翌四月一日から新たに地方税(独立税)として遊興税が設けられることになつたが、当時被告東京都は原告等に対し右事実について何等の指示をなさず、又原告等が遊興税の特別徴收義務者たる地位を取得するに必要な何等の授権手続もしなかつたので(特別徴收義務者は地方団体の委任を受けて遊興税を徴收するものであつて、地方団体が特別徴收義務者に遊興税を徴收させるには、辞令を交付しないまでも、一應の告知をなす等の授権手続が必要である)、原告等はその後同年五月七日頃、新宿区長から前記組合神樂坂支部を通じて都税として遊興税が賦課される旨の通告を受ける迄、遊興飮食の行爲者から遊興税を徴收することをしなかつた。而して右遊興税の賦課の税率や徴收手続を定めた東京都都税條例は漸く同年六月末に至り公布施行せられ、新宿区長は同條例に基いて前記の如く原告等の納入すべき金額を決定したのであるが、右金額は右條例の施行前たる同年四、五月分に関するものであるから、右決定は法規適用の原則である不遡及の根本則に違背し、違法であると言わなければならない。殊に、原告等が徴收しなかつた同年四月分については遊興税の如き行爲税は行爲の都度現場でこれを徴收する以外徴收の方法がなく、事実上不徴收の遊興税を後日遡及的に徴收することは條理上不可能であるから、かような不能事を強制する右決定は違法というべきである。又同年五月七日以降原告等が徴收した遊興税についても、当時の原告等の業態は酒一合又はビール一本について所謂お通し程度の食品を添えて(稀に材料入手の場合に限り十円乃至三十円の料理を添えて)販賣し、日本料理の場合でも公定價格(五十円)以上の料理を添えたことはなく、大多数は免税点(三十円)以下で販賣した状況であつたから、原告等が納入すべき金額としては、前記組合神樂坂支部が原告等の右営業実績に基き昭和二十一年度遊興飮食税の取扱方法によつて算出した別表(B)項記載の金額によるのが相当であつて(昭和二十二年四月一日から同年五月九日迄の業務用酒類の販賣については、原告等はすでに同年三月中、同月末日現在手持の業務用酒類について從來の平均遊興飮食税を課して四谷税務署に前納したから、この分は原告等が納入すべき金額から控除すべきである)、この点に関する新宿区長の右決定は原告等のかゝる営業の実情を無視し、確固たる根拠に基かずに多額の納入金の支拂を命ずるものとして甚しく不法である。從つて、原告等は結局昭和二十二年四月分遊興税については納入支拂の義務なく、同年五月分同税については別表(B)項記載の金額を納入すべき義務があるに止まるから、本訴において、被告東京都に対し新宿区長が原告等に対して納入すべきことを命じた同年四、五月分遊興税額(別表(A)項記載の通り)を同表(B)項記載の通りと修正すること、並びに、東京都知事は同年五月九日原告等に対し遊興税の徴收を委任したので、右委任事務が終了した事実及び原告等が納入すべき同年四、五月分遊興税額が同表(B)項記載の通りである事実を確認することを求める、

と述べ、

被告東京都の本案前の抗弁に対し

一、出訴期間については、本件の様に行政廳の違法な処分について異議の申立がなされている場合、行政事件訴訟特例法第五條第一項の出訴期間は右異議について処分がなされた日から起算するのが当然で、しかも原告等は本件の場合異議申立をなすについて何等過失がなかつたのであるから、原告等には右期間の懈怠はない。

二、当事者適格については、新宿区長が東京都知事の委任を受けて本件納入金額の決定をしたことは認めるが、東京都知事は右委任によつて当該事務について一切の権限を失つたものではないし、又東京都都税たる遊興税は都税賦課の主体である被告東京都の計算に帰属するものであるから、被告東京都は当事者適格を欠くものではない。

と述べた。

被告等指定代理人はそれぞれ「原告等の請求はこれを棄却する」との判決を求め、

被告東京都知事指定代理人は答弁として、

「原告等の主張事実中、原告等がいずれも料理飮食業を営み東京料飮組合神樂坂支部に属する組合員であること、東京都新宿区長岡田昇三が原告等に対し原告等主張の様な納入金額の決定及びその告知をなしたこと、並びに原告等が右決定に対しその主張の如く被告東京都知事に対し異議の申立をなし、同被告が原告等の主張の様に右申立を却下する旨の決定をしたことは認めるが、その余は爭う」と述べ、

被告東京都指定代理人は、

本案前の抗弁として、

一、本訴は出訴期間経過後に提起されたものであるから不適法である。即ち、新宿区長の本件納入金額決定については特別徴收義務者たる原告等は地方税法第二十條による異議申立権を有しないので、直ちに裁判所に出訴できるが、原告等は右決定に対して昭和二十三年二月九日東京都知事に異議の申立をしているから原告等が遅くとも同日までに右決定のあつたことを知つたことは明らかである。然るに、本訴はその後六ケ月の出訴期間を経過した同年八月二十七日に提起されたものであるから不適法である。

二、本訴は当事者適格のない東京都を被告とするものであるから、不適法である。即ち、本件納入金額の決定は東京都知事の委任を受けた特別区長たる新宿区長がこれをなしたのであるから、本訴は処分廳である右新宿区長を被告としなければならない。東京都は一般行政権の主体で、東京都都税たる遊興税はその計算に起属するが、地方公共団体である東京都はもとより行政事件訴訟特例法第三條に所謂行政廳ではないから、抗告訴訟である本訴の正当な当事者とはなり得ない。又東京都知事は新宿区長に右納入金額の決定を委任することによつてそれに関する権限を失うに至つたものであるから、本件の場合右決定をなした行政廳は東京都知事ではなくして新宿区長であるというべきである。

と述べ、

本案の答弁として「原告等の主張事実中、原告等がいずれも料理飮食業を営み東京料飮組合神樂坂支部に属する組合員であること、東京都新宿区長岡田昇三が原告等に対し原告等主張の様な納入金額の決定及びその告知をなしたこと、並びにもと国税であつた遊興飮食税が昭和二十二年三月末日限り廃止せられ、翌四月一日から新に地方税(独立税)として遊興税が設けられることになつたことは認めるが、原告等が同年三月中、同月末日現在手持の業務用酒類について從來の平均遊興飮食税を課して四谷税務署に前納したことは知らない。その余の事実は否認する。東京都税遊興税の賦課に関しては東京都税独立税條例(昭和二十二年東京都條例第十一号)が昭和二十二年三月二十七日公布せられ、同年四月一日から施行せられたが、右條例が公布せられるや、東京都主税課においては同年三月下旬頃東京料理飮食業組合連合会に対し、新宿区役所においては同年四月一日前後に同組合神樂坂支部の支部長及び役員に対し、いずれも口頭で、右條例公布のことや遊興税の徴收方法等について通知したから、原告等は、同年三月末か四月初旬には遊興税の賦課徴收について承知している筈である。仮りに万一原告等が右事実を知らなかつたとしても、右條例は上記の如く同年三月二十七日に公布されているのであるから、特別徴收義務者である原告等がこれを以て同年四月分以降の納入金支拂義務を免れ得るものではないことはいうまでもない。又新宿区長が本件納入金額決定に必要な調査をなすに当つては、先ず原告等業者個々について、店舖を臨檢の上條例所定の遊興税徴收簿を調べたが、正当に記入してあるものは皆無であり、所定の営業帳簿の備付のないものさえある状態であつたので、原告等業者本人の陳述、近隣及び同業者間の評判、税務署からの業務用配給酒の数量等を参考としつゝ他方原告等の昭和二十二年度予定申告額等を調査して、所得額から賣上金を逆算する等の方法により、彼此勘案の上、原告等の納入すべき適正税額を別表(A)項記載の通りと決定したのである。又原告等は昭和二十二年四月一日から五月九日迄の間の酒類販賣については、すでに同年三月分(国税)において前納したのであるから、この分は原告等が納入すべき金額から控除すべきであると主張しているが、これは国税と地方税とを全く混同した謬見であつて、むしろその前納したと称する金額こそ正に都税遊興税四月分として東京都に納付すべき分と言わねばならない。なお原告等は、地方税法(昭和二十二年法律第三十二号)第三十五條第一項、昭和二十二年四月内務省、大藏省告示第一号、同第四号及び東京都都税独立税條例(昭和二十二年東京都條例第十一号)第十二條の規定に基き、遊興税を徴收納入すべき公法上の義務を負う特別徴收義務者であるが、この義務の発生には、原告等の主張する様な授権手続は何等必要としないのであつて、地方税法、條例等の規定によつて当然に義務が発生するものであることは、右規定の解釈上全く疑問の余地がない」と述べた。(立証省略)

四、理  由

一、原告等がいずれも料理飮食業を営み、東京料飮組合神樂坂支部に属する組合員であることは各当事者間において爭がない。從つて、原告等は、地方税法(昭和二十二年法律第三十二号、以下同じ)第三十五條第一項、昭和二十二年四月内務省大藏省告示第一号、同第二号及び東京都都税独立税條例(昭和二十二年東京都條例第十一号)第十二條の規定による遊興税の特別徴收義務者であると解すべきところ、東京都新宿区長岡田昇三が原告等に対して、昭和二十三年一月三十日、原告等が特別徴收義務者として東京都に納入すべき昭和二十二年四、五月分の遊興税額は別表(A)項記載の通りである旨及びその納入期日は昭和二十三年二月七日である旨決定し、これを同月二日到達の書面で原告等にそれぞれ告知したことは各当事者間において爭がない。依つて、原告等の被告東京都知事及び被告東京都に対する請求について順次判断する。

二、原告等の被告東京都知事に対する請求

原告等が新宿区長の右納入金額の決定に違法があると認め、これについて地方税法第二十條の規定により昭和二十三年二月九日被告東京都知事に対して異議の申立をしたこと及び同被告が同年三月九日附で、遊興税の特別徴收義務者である原告等には右法條による異議申立権がないと言う理由で、右申立を却下する旨の決定をしたことは当事者間に爭がない。原告等は、從來特別徴收義務者もまた遊興税の賦課や納付について遊興税の賦課を受けたものと同様に取り扱われて來た事実を挙げて、地方税法第二十條の規定は特別徴收義務者についても適用乃至準用せらるべく、從つて特別徴收義務者たる原告等は同條による異議申立権を有するものである旨主張し、被告東京都知事の右却下決定の違法なことを論難しているが、原告等の主張する様な事実の存することはその全立証によつても認められないのみならず(却つて、証人丸島辰雄の証言によれば、特別徴收義務者は実際上遊興税の賦課を受けたものと別異の取扱を受けて來たことが認められる)、地方税法第五十六條の二、第二十五條、第三十七條等の規定によれば、遊興税の賦課を受けるもの(遊興飮食等の行爲者)と遊興税を徴收してこれを地方団体に納入する義務を負う特別徴收義務者とは全くその観念を異にするものであることが明瞭であるから、遊興税の賦課を受けたものの異議申立に関する同法第二十條は特別徴收義務者には適用がなく、又同法第四十一條は特に同法第二十條の準用を認めていないので、特別徴收義務者については同條の準用もないと言わなければならない。從つて、特別徴收義務者である原告等は前記納入金額の決定に対して地方税法第二十條による異議申立権を有しないと解すべきであるが、同法第四十一條により同法第二十三條第二項(滯納処分に対する訴願の規定)が準用されているので、原告等は右納入金の滯納処分に対する訴願において右決定の不当なことを主張できるし、又行政事件訴訟特例法によつて直接に裁判所に出訴して右決定の取消変更を求め得るものであるから、以上の様に解したからと言つて特別徴收義務者に対して何等の救済手段を認めないわけでないのは勿論であり、又右の如く解することはもとより憲法第九十三條に所謂「地方自治の本旨」に悖るものでもない。かように考えて見ると、右と同趣旨に係る被告東京都知事の前記決定は違法ではなく、その違法なことを前提とする原告の本訴請求は理由がないと言うべきである。

三、原告等の被告東京都に対する請求

(一)納入金額決定の修正を求める訴について

先ず本訴の適否について檢討すると、本訴は新宿区長岡田昇三がなした納入金額の決定の変更を求めるものであるから、行政事件訴訟特例法第三條によつて、処分廳である右新宿区長を被告とすべきことは言うまでもない。尤も、本件においては、新宿区長が東京都知事の委任を受けて右決定をなしたものであることは当事者間に爭がなく、原告等は東京都知事は右委任によつてその権限を失うものでないと主張しているが、行政廳がその権限の一部を他の行政廳に委任した場合、委任廳はその権限を失い、受任廳はその権限において自ら行政行爲をなすものと解すべきであるから、本件において現実に処分をした行政廳は受任廳たる新宿区長であると言わなければならない。又原告等は遊興税は被告東京都に帰属するから同被告には当事者適格があると主張するが、これは経済的利益の帰属主体と訴訟追行における正当な当事者とを混同した見解であつて、正当なものではない。從つて本訴の正当な当事者は処分廳たる新宿区長であるというべきであるが、原告等は自己の見解を固執し、敢て東京都を被告とするものであるから、本訴は結局当事者適格のないものを被告としている点において不適法であると言わなければならない。

(二)委任事務終了の事実及び原告等の納入すべき昭和二十二年四、五月分遊興額が別表(B)項記載の通りである事実の確認を求める訴について

先ず委任事務終了の事実の確認を求める訴についてその適否を考えると、特別徴收義務者の遊興税の徴收及び納入の義務は地方税法第三十五條第一項、昭和二十二年四月内務省大藏省告示第一号同第二号及び東京都都税独立税條例(昭和二十二年東京都條例第十一号)第十二條の規定に基いて直接発生するものであり、右義務の発生には何等の授権手続を必要としないと解すべきであるから特別徴收義務者たる原告等にその主張する様な委任事務の存することは肯認し難い。從つて、本訴においては確認の対象となるべきものは現存しないのであるから、本訴は権利保護の資格を欠き不適法であると言うべきである。

次に原告等の納入すべき税額の確認を求める訴についてその適否を考えると、本訴の訴旨は原告等が昭和二十二年四、五月分遊興税として別表(B)項記載の金員の支拂義務を有することの確認を求めるにあると解せられるが、行政行爲は公定力を有し、公権的な手続によつてその取消変更がなされない限り常に適法であることの推測を受けるのであるから、行政行爲の取消変更がなされていない状態において独立して当該行政行爲の定める権利関係と異る権利関係の確認を訴求するが如きことは許されないところであると言うべく、從つて本訴はこの点においても権利保護の資格を欠いて、不適法であると言わなければならない。

(三)從つて、原告等の被告東京都に対する請求はいずれも本案について審理をする迄もなく失当である。

四、以上の理由により、原告等の被告両名に対する請求はこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟特例法第一條民事訴訟法第八十九條、第九十三條第一項本文、第九十五條を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 菊池庚子三 田嶋重徳 大内恒夫)

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